内容紹介
関東大震災が起きた翌年、大正十三(一九二四)年三月末、神田區和泉町の寄席いずみ亭の席亭、笹村平造の家の庭の桜は、半年前の震災などなかったかのようにその蕾を綻ばせ美しい花を咲かせようとしていた。震災を何とか免れたいずみ亭では、震災後に拾って来て寄席に客を呼ぶ招き猫だと席亭の平造を喜ばせていた猫のタマが行方不明となり、張り紙を貼って探していたが、同様に落語家七福亭小圓とその弟弟子で二つ目の七福亭朝治は、震災の前の晩からその行方が判らなくなっていた小圓の弟子の前座、七福亭めだかを探していた。震災で家を失い、友人の七福亭朝治の家に居候していた戯作者の坂上御堂は、小圓と朝治に行方不明の前座、七福亭めだかを探してほしいと頼まれて、自身の書く小説の探偵の如くめだかの行方を調べ始めることになる。めだかは、震災の前の晩、湯島の芸妓の梅佳への使いを小圓に命じられて梅佳に会いに行ったのだが、その梅佳は恋人で将来を嘱望されていた若手画家の丸田と二人、震災の数日後に丸田の神田明神下のアトリエで、瓦礫の中から心中死体として発見されていた。坂上御堂は、その心中に疑問を持ち色々と調べていくのだが……。大正末期の東京、落語界を舞台に展開する、本格派ミステリー小説。文中には、事件にちなんだ新作落語も登場して来ます。